公式ページ
1話。現在(2025年6月現在)2話まで掲載中(どちらも無料)
久々に面白かったマンガ紹介
紹介と言ってもまだ2話しか掲載されてない。更新ペースはどうやら3ヶ月に一回更新されるっぽい。季刊誌と同じペース
この紹介記事を書くまで作者の紹介欄を読んでなかったが現役医師らしい。世の中すごい人がいっぱいいるものだな……ちょっとマンガが描けた程度で威張ってはならないと肝に銘じたい
閑話休題。マンガの話に入る
この作品では「銀河風(テンペスタ)」と呼ばれる宇宙的な自然現象により、よく知られた生物(およそ200万種)と、ちょっとだけ変わった性質でよく知られていない生物の共存を描いている
共存とはいうが、概ね人と変わった生物の衝突……というより衝突ですらない重なりと言ったほうがいいか。今のところ掲載されている2話はどちらとも「銀河風(テンペスタ)」による変わった生物が人に寄生している状態を話の題材としている
上記の通り衝突ですらない重なりなので、この寄生しているという表現もややズレている用な感じではあるが、まあ細かくは読んでもらいたい。そんなに長くないし一話完結だし、読後感はとてもいいのでひとまずここまで読んでいてまだマンガを読んでいないならまずは読むことをおすすめする
もう一回第一話のリンク
話の構造としては、変わった生物に寄生された人物が、その生物を通して価値観に変化をもたらすという点で一貫している
もちろん現在2話までしかなく今後違った展開の話が来る可能性はあるが、1話がその方向性を特に強調して書いていたのでおそらくそれが基本骨子になるのだろう
前提として、人間の価値観はそう簡単に変わらない
そのうえで、では価値観や思い込みに何かしら変化が与えられるのはどのようなタイミングかというのを逆算しているように思う
自身の肉体になんかよくわからん生物が住み着いている、という状況がそれほどのインパクトを与えるのは想像に難くない
ここで「体に大きな異常がありました」ではなく「なんかよくわからん小さな生物が住み着いてます(別に悪さをしてません)」というのがポイントなのだと思う
わかっていると思っている自身の肉体に異物が入り込んでいる状況(自覚症状なし)は、わかっていると思い込んでいる価値観や偏見に対するほんの一滴の変化の兆しとして働いているのだ
ときに、価値観、あるいは偏見、もしくは常識というものは、言ってしまえば経験に基づいて作られるものだと考えられる
歳を取るほどに頑固になるのは積み重ねた経験自体の厚み自体が大きくなるからである
ただ、とはいえ、実際の経験に基づく以上、積み重ねた中に全く違うものが混ざり込むことは珍しいことではない。きっかけだって旅行などの大きなイベントでなくとも、ほんの日常にサラリと混ざり込むケースだってあるはずである
昨今の多様性を含む流れでの言ってしまえば保守的な人々の抵抗は、この混ざり込んだものが多すぎる・大きすぎるがゆえの拒絶反応なのではなかろうか
このマンガを読んで、人が考え方を変えるにはほんの僅かな些細なきっかけで十分なのであって、それがこの「よくわからない小さな生物」程度の、体にいるかいないか精密検査をしないとわからないような存在ぐらいでスタートラインをちゃんと引いてあげるべきだったのではないか……というのは考えすぎだろうか
しかしこういった「小さなきっかけ」は本来大事にすべきもので、成果を重んじるばかりに大きな流れを重要視しすぎるのは現代社会の悪い癖だというのに異論はないだろう
同時に「よくわからない」という事柄に対しても新たな価値観を提供しようとしている
この世には「すべてが分かる」などということはないわけで、その中でよくわからず靄(もや)がかかった状態は必ず存在している
どうしても現代社会はこの靄を払いたくてしょうがないように思われる。わからないをわかるにし、理解の内においてしまいたいというある種の啓蒙主義的な価値観である
この作品ではその「よくわからない」状態を「そのままで良し」としようとしている。それは、今はわからないという形でもあり、将来もわからないかもしれないという形でもある
「そのうち分かるから置いておこう」ではなく、わからないものをわからないままとして良しとする、という考え方である
決して前述した啓蒙主義的な価値観を否定しているわけではないのもポイントで、否定しないまま違う形を主張する形が取られているのも感じた特徴の一つだった
少し話の角度を変えるが、この作品は基本的に「寄生された人物」を中心とした人間ドラマとして展開される
医者は名前が一応あるが名乗るシーンはなく、主人公というよりは狂言回しに徹底している。一応「薄羽先生」というらしいが、この名前が出るのは1話の後半の一回のみで、2話は出てない(はず。一応『薄羽医院』という病院の名前は出ているが)
とにかく変わり者として描かれていて、同時にこの「変わり者ぐらいしか詳しくないのであろう変わった生物」という傍流感を強調しているようである(さらにいうと看護師も風貌だけでかなり変わってる感が出ている)。また2話では老けないことが触れられているが、これもおそらくシナリオ中での傍観者として徹底するための描写なのだと思われる
こうしたドラマのそばで傍観と狂言回しをする役は珍しくないが、そういう役割としての世界から浮いている感じが少ないデザインがされているのはちょっと興味深い。喜ぶ描写やがっかりする描写はわかりやすく、浮世離れした美貌があったりするわけでもなく、内面と外見での不一致感が少なかったりしている。ある程度医者としての説得力がほしかったからなのかもしれないが、1話時点ではその立ち位置に気付けなかったので結構器用なデザインをしている気がする
今後この医者もなにかしらドラマがあるのか、それともひたすら狂言回しで進めるのかは今後次第なので楽しみにしていくことにする
いい作品なのでぜひ長く続いてほしいと思う